X:\archives\2008\02

20080209

投稿者: entasan @ 04:10

◇某案件で書いた文章

◇1.1 RFID 技術に関する社会的背景
 RFID 技術は国内外を問わず近年めざましい進展を遂げている。身近な活用方法としては、公共交通機関のゲートパスや電子マネーの運用媒体として、あるいは物流における製品のトレーサビリティや品質管理を目的としたものがよく知られている。2004年に発表された「u-Japan 構想」の中でも触れられているように、RFID 技術は「ユビキタスコンピューティング」と呼ばれる次世代コンピューティングにおいて基盤的な技術であり、特にパッシブ型RFID タグはその製造コストがアクティブ型に比べて安価であるため、これを利用したさまざまなサービスが提案されている。
 建築業界におけるパッシブ型RFID 技術の応用は、まず建築資材トレーサビリティと物品管理において検討と導入が始められている。このように、建築施工段階におけるRFID タグの利用についてはかなり検討されてきているものの、これを竣工後にもある特定の目的に対して引き続き利用することを前提とした、建築のライフサイクル全域にわたった利用方法についてはまだあまり検討されていない。このことはRFID タグにかけたコストが建築のライフサイクル全体で活かされないという懸念へとつながり、ひいては流通段階での普及にも影響を与えてしまっていると考えられている)。

◇1.2 歩行行動追跡技術に関する背景
 建築計画分野において、歩行軌跡を得るための手法として従来から広く用いられてきた方法として、まず画像解析によるものがある。歩行軌跡抽出による動線解析を画像解析により行う場合、都市空間規模の広い空間を対象とする場合は適用性が高いが、住宅やオフィス空間のように狭い空間を対象とする場合はカメラの画角や歪みによる支障があるだけでなく、しつらえなどによる死角が多数存在し、精度高く広範囲にデータ収集を行うことは非常に困難であった。また、画像解析は分析に多大な人的コストが伴うだけでなく、ビデオ撮影という手段が被験者に監視をイメージさせるので心理的負担を強いることとなり、長期間にわたるデータ収集の支障となっている。ステレオカメラを用いる方法も提案されているが、調査可能範囲に関する問題は依然残ったままである。
 モーションキャプチャーを用いる方法は、前述したカメラ画角の問題だけではなく、被験者に装着させるマーカーの設置位置や個数、空間内にマーカーと誤判別してしまうものを配置できないなどの困難さがあり、実験室ならばともかく、実際の生活空間での調査に用いるには支障が大きい。超音波やアクティブRFIDタグ、無線LAN などを単独あるいは複合的に用いる方法は、商業施設の顧客動線調査に利用されるなど既に実用化レベルで開発が行われているが、機材の設置が大規模・複雑である点や費用が高価である点、電波状況により精度が極端に悪くなるなどの問題点が挙げられる。GPS による手法は、人工衛星からの電波受信に支障のある屋内では精度が問題となるが、RTK-GPSなど高精度な手法はまだ高価でありコストの面で問題が残る。赤外線センサによる方法は、センサの検知領域に侵入した場合にON/OFF で判定するものであり、入退出管理には向いているが位置特定や個人特定には不向きである。

◇1.3 「 スリッパ型RFID リーダシステム」の位置づけ
 本報において採用している「スリッパ型RFID リーダ」による歩行行動追跡システムは、建築空間内にいる居住者がRFID タグリーダを携帯し、床下に敷設されたRFID タグのユニークID を歩行動作の中から読み取り、これをネットワーク上のサーバに蓄積するというシステムを採用している。1.2 節で例示したシステムと比較すると、本システムによるトレース精度は居住者の歩行動作特性とRFID タグの貼付間隔、貼付レイアウトなどに依存するが、RFID タグは建築空間に固定されているため、読み取った時点での位置特定精度は常に100% である。ただし、床面にRFID タグを敷設したり、リーダを被追跡者が所持したりする関係上、都市空間規模の大空間や不特定多数の人間の行動追跡には不向きである。しかしながら、長期にわたる計測、特定少数の同時追跡、リアルタイムな位置特定、プライバシー保護などの点で優位性を持っている。筆者らは特に、長期にわたる計測が可能になる点において、人間行動調査に基づいた建築計画研究への発展可能性を評価している。以上より、他の追跡システムと比較した本システムの位置づけを表1に図示する。

◇1.4 行動モニタリングにおけるトレース精度の必要性
 筆者らが研究を行ってきたような歩行行動追跡に基づいた人間行動モニタリングをはじめとし、電力量センサや圧力センサなどによるモニタリングデータを基盤とした行動モニタリングによるコンテクストアウェアネス(状況理解)が実現されることで、居住者の行動異常や状態異変を検知する「見守りサービス」を提供したり、ライフスタイルに合わせて環境をコントロールする「コンシェルジュサービス」を提供したりすることが可能になると考えられている。これに類する研究は他の分野においても検討が試みられている注4)。建築分野においては、リフォーム計画案の立案が生活行動のモニタリングデータによって効率化されれば、増えるリフォームやリニューアルの需要に対して適切な提案を行うことが可能になると考えられる。
 「見守りサービス」や「コンシェルジュサービス」を提供する際には、サービスを提供するタイミングやコンテンツがいかに状況にかなっているかという「精度」が重要であり、サービスを提供するエージェントが精度よく人間の状況を把握している必要がある。また、行動調査に基づいた建築プランニングを適切に行うためにも、トレース精度の高さは重要である。
 歩行動作などの人間の何気ない動作からRFID タグを読み取るということは、人間にマン−マシン・インターフェースとしてのRFID タグの存在を意識させないという意味で非常に重要である。しかしながら、人間の実際の動作とマシンインターフェースとの間の相互作用として現れるトレース精度との関係については、いまだ十分に明らかにされていない。
 したがって、RFID タグの貼付間隔や貼付レイアウトなどといった施工条件と、人間の自然な動作との相互関係において成立するトレース精度についての知見を得ておくことで、現在検討されているような行動追跡システムの応用方法をより効果的に展開することが可能になると考えられる。

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